失踪宣告って?大切な家族が行方不明になったとき残された人たちを守る制度です−民法で、自分と大切な人を守る−
こんにちは。リーガルライターの法崎ゆいです。
大切な家族や身近な人が、ある日、突然いなくなってしまったらどうすればよいのでしょうか。
もちろん行方を探して、警察に届け出て、待ち続けたいものですよね。でも、何年経っても帰ってこないとき、法律上どう扱えばいいのでしょうか。
今回の話題は、いままさに大切な人を待ち続けている方にとっては、苦しいお話かもしれません。
そのため、読む心の準備ができている方だけ、読んでくださいね。
失踪宣告とは
大切な家族や身近な人がいなくなって、一定期間が過ぎると、法的には「失踪宣告」をおこなうことで、亡くなったものとみなす制度があります。
これを失踪宣告(しっそうせんこく)といいます。
警察に届ける捜索願や行方不明届とは異なり、失踪宣告は家庭裁判所に申し立てることになります。たとえ遺体が見つかっていなくても、条件にあてはまれば、裁判所が正式に「この人は死亡したとみなします」と判断するのです。
失踪宣告がなされると、法律的に「亡くなった人」として扱うことになります。
大切な人を、遺体も見つかっていないのに亡くなったとみなすなんて……と思われるかもしれません。しかし、相続や婚姻関係などを考えると、いつまでも帰ってこない方をそのままにしておくと、逆に混乱が起こってしまいかねないのです。
具体例も、このあと紹介しますね。
失踪宣告には2つのパターンがある
民法には、失踪宣告をめぐって2つのパターンが用意されています。普通失踪と危難失踪(きなんしっそう)です。
普通失踪は、理由もわからずに姿を消し、そのまま生死不明の状態が7年間続いた場合に適用されます。
家を出たまま戻らず、連絡も途絶えてしまい、その人の安否がまったく確認できない状態で年月が経ったときに申し立てることができます。
一方、危難失踪は、大地震・戦争・船の沈没など、命にかかわる事態が発生したなかで行方不明になった場合に使われるものです。この場合は1年間生死が不明なら失踪宣告を申し立てることができます。
失踪宣告は「何年いないか」だけでなく、「どういう状況でいなくなったか」によって基準が異なるんですね。
なぜ、死亡したことにする必要があるの?
まだ生きているかもしれないのに、死亡とみなすなんて……とためらいを感じる方は少なくないと思います。
でも、前述のように、失踪宣告は、行方不明者を生きているままにしておくと混乱を来しかねないために設置されている制度です。
これは、遺族や周囲の人たちを守るために設けられているんです。
たとえば、家族が生活費を引き出せない、借金の利息や遅延損害金がどんどん増えてしまう、住んでいた家の名義変更ができないなどの問題が起こりえます。
行方不明の人の名前で資産や不動産が残ったままだと、さまざまな法律手続きがストップしてしまうのです。
でも、失踪宣告によって「法律上は死亡」と扱えるようになると、相続が始まり、預金や土地などの名義変更が可能になります。
子どものためには両親がいたほうがよいのに、離婚ができないために、再婚ができないというようなこともあります。
婚姻関係があった場合、配偶者は法律上「未亡人(夫や妻を亡くした人)」となり、再婚が可能になるのです。
失踪宣告をしたのに、実は生きていたらどうなるの?
失踪宣告を受けたあと、実は本人が生きていたとわかった場合はどうなるのでしょうか。
この場合、本人や周囲の人が家庭裁判所に「失踪宣告の取消し」を申し立てることができます。
裁判所が取消しを認めれば、失踪宣告は「なかったこと」になります。
ただし、失踪宣告が出されたあとに成立した相続などの法律効果は、原則としてそのまま残ります。失踪宣告によって財産を相続した家族がいた場合、本人が戻ってきたからといってすぐに全財産を返さなくていい場合もあるということです。
このように、生きて戻ってきた場合にも配慮されたルールが設けられているので、安心してください。
まとめ
生死不明は、誰にとってもつらい状態です。けれど、悲しいままにしていては、残された人が困ってしまう事態になりかねません。
失踪宣告は、生活や法的手続きを前に進めるための手段です。いなくなってしまった人を勝手に“死んだこと”にする制度ではありません。先に進むための制度なんですね。
生きていたときのルールもあるので、前に進むためのひとつの区切りとして、活用してくださいね。
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