不起訴って何?−刑法・刑事事件をわかりやすく−
こんにちは。リーガルライターの法崎ゆい(ほうさきゆい)です。私のお仕事は、法律に関する記事を執筆することです。
とくに刑事事件について書くことが多いので、ここでも用語や犯罪などの基本についてわかりやすく解説していきます。
今回は「不起訴」について。
不起訴とは
ニュースなどで「被疑者は不起訴処分となりました」という言葉を耳にすることがあります。
簡単にいうと、検察官が被疑者を「刑事裁判にかけない」と決めることを不起訴と言います。不起訴になると、たとえ逮捕された場合であっても裁判になりません。
なにか犯罪が起こったとき、まずは警察が捜査しますよね。警察が捜査を終えると、事件は検察へ送られます。検察は警察が集めた証拠などをもとに、被疑者を起訴する(裁判にかける)か、不起訴にする(裁判にかけない)かを判断するんです。
このとき、不起訴になると、その時点で事件は終了です。そのため、もし身柄を拘束されていた場合は釈放されて日常生活に戻ることができます。
裁判が開かれないので、有罪判決を受けることもなく、刑罰も前科もつきません。
つまり、法律上は罪を犯した人だとは扱われないということです。でも、不起訴=罪を犯していないわけではありません。
不起訴には、いくつかのパターンがある
実は、不起訴と言っても、いくつか種類があります。検察官がなぜ裁判にしなかったのか、その理由によって呼び方が変わるんです。
嫌疑なし
まず「嫌疑なし」は、そもそも犯罪をしていないと判断された場合です。
たとえば、人違いだったり、事件そのものが誤解や勘違いであったりしたときは、これに当たります。最初は疑われたけれど、きちんと調べてみたら無実だった……そんなときに出されるのが「嫌疑なしの不起訴」です。
でも、これは滅多にありません。
嫌疑不十分
次に「嫌疑不十分」です。これは、犯罪の疑いはあるけれど、証拠が足りないときに出されます。
刑事裁判では「疑わしきは罰せず」という原則があり、確実な証拠がなければ有罪にできません。
もし証拠が不十分なまま起訴しても、裁判で有罪にできない可能性が高いでしょう。そのため、検察は無理に裁判を開くのではなく、不起訴として事件を終わらせるのです。
犯罪をしたことは事実だとほとんどわかっていても、証拠がなければ不起訴になるんですね。
つまり、不起訴だからといって罪を犯していないと認められたというわけではないんです。
起訴猶予
そして、圧倒的に多いのが「起訴猶予」です。これは、犯罪をしたことは認められるけれど、今回は起訴しないという判断です。
罪を犯したことは確実とも言えるし、有罪にできるだけの証拠もあるけれど、検察官の裁量で「裁判にしないでおこう」と決めるケースです。
たとえば、被疑者が深く反省しているとか、被害者にしっかり謝罪と賠償をしているとか、前科がないとか、再び罪を犯すおそれもないとか、そんなときに起訴猶予によって不起訴になる可能性があります。
刑罰によって懲らしめるよりも、もう1度社会でやり直す機会を与えるほうが望ましいという判断などがベースとなって、起訴猶予となります。
そのほかの不起訴
そのほかにも、不起訴になるケースはいくつかあります。
・被疑者が亡くなってしまった
・事件の時効が成立している
・日本に裁判権がない
・刑が廃止された などなど
たとえば、日本国内であっても、米軍の公務中の犯罪はまずアメリカ側に裁く権利があるとされています。こうした国際的な取り決めの関係で、日本の検察が不起訴とすることもあります。
不起訴=「無罪」ではない
ここで大切なのは、「不起訴=無罪」ではないということです。
証拠が足りずに嫌疑不十分で終わったとしても、罪を犯していないと認められたわけではありません。また、起訴猶予も「罪はあるが起訴しない」だけで、事実としては犯罪が成立していることが多いわけです。
不起訴だとしても「罪はあるけれど、裁判にしなくていいだろう」という判断が、多いのが実情なのです。
ちなみに、不起訴ではなく起訴されると裁判にかけられます。
起訴については「起訴って何?−刑法・刑事事件をわかりやすく−」の記事で書いたので、こちらもぜひ読んでみてください。
まとめ
不起訴とは、検察官が「この事件を裁判にしない」と決めることです。無実が明らかだったり、証拠が足りなかったり、あるいは反省や償いの姿勢が認められたときに、検察の判断で不起訴が選ばれます。
そうと聞くと、「罪を見逃した」「甘い判断」と思う人もいるかもしれません。
でも、すべての事件を起訴して有罪にすることが、必ずしも社会にとってよい結果になるとは限らないんですね。
被害者や、被害者側の関係者の気持ちを考えると複雑なところではありますが……。刑事司法には「社会復帰を支える」という大切な目的もあるということなのです。
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